演劇ノート茨大演研冬公演「鎖骨に天使が眠っている」

活動記録

12月16日15:00から、茨城大学演劇研究会冬公演「鎖骨に天使が眠っている」を観劇してきました。

観劇をしに行くのは久しぶりなので、少し緊張してました。
素晴らしい公演でしたよ。
感想はネタバレを含むため、全公演が終わってからの更新になってしまうことをお許しください。

また脚本や公演の情報については↓
茨大演研冬公演「鎖骨に天使が眠っている」観に行くよ
からご覧ください。

茨城大学演劇研究会

茨城大学の演劇サークルの一つです。
多くのメンバーが在籍しており、演劇の力量も高いサークルです。
またホームページ、稽古場日誌も定期的に更新されており、公演までの期間も演劇について触れることができます。

このブログでも何記事か茨大演研について書かせていただいてます。

noteにて稽古場日誌、Xにて公演情報が更新されていますので是非ご確認ください。

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HP  →  茨城大学演劇研究会ホームページ

感想(ネタバレ有)

茨城大学図書館付近。素敵な立て看板。

演出について

役者の良さがよく生かされている演出でした。
表情豊かな役者が多いですね。
シーンによって変わっていく人物の表情は、舞台と観客との近さもあってより共感できました。

ガレージの前が舞台になっていましたが、ドアと窓が機能的につくられていて素敵でした。
窓を使って役者の必要な演技のみを魅せる演出が好きでしたし、スポットに当たる人物の告白と室内の写真撮影を繋げる演出も驚きました。
照明の当たる角度や道具の配置など考えられているなぁと。
ガレージ内を照らす照明が暖色だったのも素敵でしたね。
義男にとっては、ガレージ内が自分の世界だったのかなぁ。
会場は狭い室内でしたが、それが一層、義男の世界の狭さを暗示しているようで、とても感動しました。

過去と現在とを行き来する劇ゆえに、暗転シーンが多かったですが、オルゴールの音色のような音響で退屈には感じませんでした。
音響の選び方が秀逸ですね……。
回想後に流れる音は、ただもの悲しいだけの音ではなく、どこか温かく親しみのある旋律でした。
脚本は一見「悲しい」物語と思われてしまう展開です。
今回公演は鳴り響く音響によって悲しさだけでなく。
思い出を懐かしむような、そしてそれが義男にとっては温かみもある思い出であったことを伝えてくれるようで。
今回の公演、脚本の内容に重厚感を出しているのは音響の力が強いと思います。

衣装の変化が激しいのもあり、役者さんは着替えるの大変だったでしょうね……。
捕虜となったシーン。上下オレンジの服だったのは、脚本のもとなった事件を踏まえての演出でしょうか。
オレンジの服から、白の浴衣に変化したのが綺麗でしたね。
浴衣ではありましたが、ラストシーンは死装束にも見えました。
白を基調とした浴衣に、青の花が付されていたのが目に鮮やかで素敵です。
勘違いだったら申し訳ないのですが、現代がお葬式ということで黒色中心、それに対比するように過去は白色の衣装(制服・Tシャツ・浴衣など)でまとめられていたのでしょうか。
白黒で構成される衣装だからこそ、捕虜のオレンジ服がとても映えていたと思います。

宣伝デザインについて

観終わって、この記事を書きながら気づきました。
ビラのデザインもオレンジと白と黒で表現されていますね。
伏線回収してるなぁ、すごいなぁなどと勝手な感想を残しておきます。

ビラ表、とても素敵です。
パンフレットも見開きで、口紅を塗ろうとしている義男の姿ですね。
余白の使い方が綺麗で、見やすく、魅力的なデザインで素敵です。

役者について

坂本透

茨苑祭の時の演技とは打って変わって、しんみりとした演技が多かったですね。
大胆に体を使って演技ができる彼ですが、今回の公演でも遺憾なく力を発揮していました。
照れる、狼狽える、決断する……感情を体で表現するのが上手でした。
体の動きに乗って、台詞にも熱が入っていきます。
狭い舞台も、彼が大きく動いてくれますから、世界が広がるようでした。
最後の口紅を塗るシーン、葬儀屋として表情は真面目でしたが、彼の演技、背中に語るものが多くあり、感動しました。

桐野義男

彼の演技の素晴らしいと思うところは、まっすぐに観客に顔を向けられることでしょう。
真っ直ぐ正面を見るシーンでは、けっして目線を逸らすことがなく。
その演技力によって、ガレージ内窓のシーンも説得力を持ちます。
最初は義男の「常識」はずれのシーンに思わず笑ってしまった観客も、彼の目線や恍惚とした表情、打って変わってすすり泣く演技に、自然と魅入られていました。

桐野建人

一心不乱にドアを叩くシーンの印象が強烈でしたね。
一恵の死から少しずつ変わっていく家庭の様相を印象付けていたのは父親の力強い演技です。
頑固で怖い印象ばかりが舞台上でしめされていましたが、誹謗中傷に耐えて、何度もペンキを塗り直していたと言われていました。
それを表すように一恵の生きていたころは、厳しくもどこか優しさが感じられる演技でした。
シーンや台詞によって演技に微細な抑揚をつけられる、素敵な役者さんだと思います。

桐野京子

喜怒哀楽の機微があまりなく、常に気だるげな人物でしたが、その役柄で最大限に感情を出せる役者さんでした。
台詞の言い回し、アクセントや声のトーンで感情を分けられていました。
声色も変化させられて、身体も程よく動かせるので、バランスが良い役者さんだと思います。
個人的に好きなカレーを作ったシーンで、日常的に抱えていたのだろう「疲れ」がうまく表現されていて。
そしてそれが父親の狂気と対比になっていて、圧巻の演技でした。
あまり動かない表情、身体の動きでも悲しみや怒りの感情が明確に伝わってきます。

桐野一恵

彼女の演技を見てると泣いてしまいそうになるんですよね……。
元気で親しみいっぱいなシーンも、猫のことや柚香のことで悩むシーンも、表現力豊かで素敵でした。
彼女は周りの演技に合わせることのできる役者です。
ガレージ内窓のシーンで、私の席から見えていたのは腕のみでしたが、腕だけであそこまで綺麗な演技ができるのは彼女の良さだと思います。
そしてその美しさが、義男の感情表現を邪魔することなく、調和しているのも、彼女の特徴の一つだと思います。

武田柚香

どこか不思議な印象の演技をする役者さんでした。
堂々としている、けれども哀愁や迷いのある演技。
大人びているようで、子どもらしい未熟さもある、曖昧な立ち位置の「柚香」の人物像をしっかり表現していました。
無駄のない動きをしますし、歩き方がしとやかなので、葬儀屋としての演技が際立ちますね。
「鎖骨に眠っている」と義男に告げるシーンもとても神秘的でした。

緑川昌美

台詞をまっすぐに伝えてくれる役者さんです。
義男と拓次の最期を告げる場面、彼女が放つセリフだからこその場面転換でした。
ナレーションのようで、感情が籠った朗読のようで。赤い照明、激しい音響とも、相応しく声が響きます。
シーンによって声色を変えていますが、まっすぐ前を見て台詞を言ってくれるシーンがやはり爽快です。

緑川拓次

普段は快活で大人びている、けれども希死念慮を抱いている、そんな不安定な演技がとても魅力的でしたね……泣きそう。
彼の演技、かなーり眼が情景を語ってくれることが多いです。
目は口程に物を言う、全くその通りだなぁと思わされました。
彼だけに見えている戦場の情景も、目の動きを通じてありありと観客に伝わるようです。
「カメラは本当を映す」と言っていましたが、彼の眼の動きもまた、人物の本当を映していると思います。

声のみの出演の方へ

義男を茶化しに来た同級生の声。とても腹立たしく、なんだか憎い感情を引き起こすようでした。
短いセリフでしたが、素晴らしかったです。

まとめ

本当に素晴らしい公演でした。
ありがとうございました。

去年の夏公演で活躍していた役者が、大きな背中になったなぁと見惚れていました。
一年生も活躍していて、これからの成長が楽しみですね。
演出さんも今回が初めてとのことですが、個人的に好きなシーンが多く、とても素敵な舞台でした。

今回の公演、脚本が素晴らしいのは勿論ですが。
演出も舞台も、役者も、素敵なものばかりでした。
まだ大学生の彼らがこれからも成長していくと考えると、わくわくしてしまいますね。

一度、演劇を作る側の人間になってしまうと、舞台や照明音響、役者の動きに注目してしまいます。
物語だけを見る純粋な観客には戻れないなぁなどと思ってました。
完全にメタ的な感想で申し訳ないです。

機会がありましたら、また見に行こうと思います。
演劇研究会の皆様、素敵な公演をありがとうございました。
そして、ここまで読んでくださった方々も、ありがとうございます。
寒い日が続きますので、どうぞお体にお気をつけてお過ごしください。

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