今日は去年のクリスマスに貰って、そのまま読めずにしまっていた「むらさきのスカートの女」のご紹介です。
誰に貰ったかは、御察しでお願いします。
大学生がクリスマスプレゼントを貰う相手なんて、そういうことです。
これを読んだら思い出がなくなってしまうような気がして、ずっと読めずにいたんですが。
思い出がなくなるようなことは無く、早く読めばよかったなぁと思った次第でした。
さて、思い出語りはここまでにして。
「むらさきのスカートの女」は芥川賞受賞作品です。
わたしはこれまで近代文学や海外作品を多く読んでいたので、芥川賞受賞作品に手を出すのは初めてです。
しかも帯には「何も起こらないのに面白い!」と豪語されてますから。
……気になって仕方ないですね。
下手な煽り文句なら、期待が高まり過ぎてしまいますから、そう簡単にこんな帯をつけることはないでしょう。
ということは期待しまくっても、面白い作品なわけです。
「むらさきのスカートの女」
わたしが今回読んだのは朝日文庫から出版の文庫本サイズ。
本文は150頁ほどですので、早い人であれば一時間あれば読み切ってしまうのではないでしょうか。
今村夏子
「あたらしい娘」で第26回太宰治賞を受賞。
同作を改題した「こちらあみ子」で第24回三島由紀夫賞を受賞。
2017年「星の子」で芥川賞候補作に入り、2019年、今回ご紹介した「むらさきのスカートの女」で芥川賞を受賞。
わたしはこの作品で初めて今村夏子さんに触れました。
多くの受賞作があることは、普段本を読まない人からもすごいと感じてもらえるのではないでしょうか。
今回「むらさきのスカートの女」を読んで、本当に印象的で素晴らしいと思いました
(感想はこの後に記載しています)
今後、今村夏子さんの作品ももっと読んでいきたいと、強く感じています。
芥川賞受賞理由
小川洋子さんの講評
「奇妙にピントの外れた人間を、本人を語り手にして描くのは困難だが、目の前にむらさきのスカートの女を存在させることで、“わたし”の陰影は一気に奥行きを増した。」
「ラスト、クリームパンを食べようとした“わたし”が、子供に肩を叩かれる場面にたどり着いた時、狂気を突き抜けた哀しさが胸に迫ってきた。」
「常軌を逸した人間の魅力を、これほど生き生きと描けるのは、間違いなく今村さんの才能である。」
川上弘美さんの講評
「小説を読むと、作者の声が聞こえてきます。」
「「むらさきのスカートの女」の中には、作者今村さんの声がほんとうによく響いていました。今村さんがつくりあげた、今村さんの声を、惜しむことなく美しく聞かせてくれました。一番に推しました。」
宮本輝さんの講評
「語り部である女が、この小説では最も異常性が顕著だが、読み手はむらさきのスカートの女を変わり者として感じてしまう。このふたりがじつは同一人物ではないかと疑いだすと、正常と異常の垣根の曖昧さは、そのまま人間の迷宮へとつながっていく。今村さんは以前候補作となった「あひる」でも特異な才能を感じさせたが、今回の「むらさきの…」で本領を発揮して、わたしは受賞作として推した。」
以上のサイトより引用しました。
感想
面白かった……!!!!
帯の言葉は間違いじゃなかった!
面白い!!!
さて、真面目に感想に戻りましょう。
この作品は日常に潜む違和感を遺憾なく表現した作品と言えるでしょう。
読後の淡白感と何とも言い難い後引く思い。
その微妙で言い知れない違和感が、足元のおぼつかなくなるような歯がゆさ、不思議な世界をうみだしています。
けれども、不快な読後感ではなく。
なんとも「こういうこともあるか」と思ってしまいそうなあっさり感。
それが小説内の人物や読者の私たちを日常にゆっくりと戻していきます。
この作品は、そこら辺にいる、何ら変哲のない人間の人生さえ、追いかけてみるとドラマがあるように気付かせてくれます。
例えばわたしはそこら辺にいる大学生と殆ど変わらない日常を過ごしていると思います。
そしてそれは私だけでなく、多くの大学生ーいえ、多くの人々が「自分は平凡だ」と思って生きているのではないでしょうか。
平凡で、退屈で、変わらない日常。
そんな人間だって、毎日絶対に変らない日常を過ごしているわけではありません。
唐突な思い付きで所属する団体を辞めてみたり、唐突にそれまで全く手に着けてこなかった趣味に触れてみたり。
人間の変化はどこで起こるのか、主観である私たちには気づかない変化が起こっているのかもしれません。
そんな微細な変化が、他の誰かや監視者にとっては、ドラマのように見えることもあるのかもしれない。
もしやすると、平凡で追いかける価値がないと自身で思い込んでいる私たちにも、こういった危害を加えるつもりのない監視者が存在しているのかもしれません。
道端でいつも見る、誰かが誰かと入れ替わっていることもあるかもしれません。
ちょっと注意深く、周囲を見るだけで、違和感を追い続けるだけで、この小説のような不思議な世界観に引き込まれていくのかもしれません。
日常からほんの少しだけつま先立ちをして歩いているような、地に足がつくかつかないかの違和感を、リアルに書きあげた作品でした。
とても面白かったです。出会えてよかった。素敵な作品をありがとうございました。
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