その才能は本物か「葉桜と魔笛」太宰治

日々雑記

今回ご紹介するのは乙女の本棚シリーズ第二弾! 太宰治の「葉桜と魔笛」です。
もう何度太宰先生にブログ記事を書かせていただいているのかわかりませんね……。
大好きだからね、仕方ないね。

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さて太宰治と言えば「女性の独白文体」が上手だと言われます。
太宰治の名前を世に知らしめることになった「斜陽」、川端康成に絶賛された「女生徒」、そして今回ご紹介する「葉桜と魔笛」。どれも女性の独白文という観点で見ると秀逸な作品ばかりです。

一方で、これら取り上げられている作品は全て基になった話のネタや日記があり、太宰治自身の才能で書かれたものではないとする意見もあります。元ネタ丸パクリしただけだろ!! ってことですね。
才能が本物であるか、どちらだと思いますか?

ここで一つ謝罪を。 私はかなり太宰治が好きなので、太宰天才寄りの回答記事を書きます。
勿論、私個人の考え方ですので、絶対に正しい! というわけではありません。
加えて太宰治はもう亡くなってしまわれました。実際どんな意図をもって書かれたかなどの答え合わせができないからこそ、考察や勘繰る楽しみもあるはずです。
「葉桜と魔笛」に関してはかなりの考察記事がありますから、ぜひそれらも含めて楽しんでくださると幸いです。

乙女の本棚

この乙女の本棚シリーズは、近代文豪と現代イラストレーターの合作絵本。
小説としても、画集としても楽しめる一冊として生み出されています。

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「葉桜と魔笛」は紗久楽さわさんによってイラストが描かれています。
乙女の本棚シリーズ、太宰治の作品のなかで私が一番好きな方かもしれません。
どことなく平成後期の少女漫画チック。元ちゃおっ娘の私には刺さりまくる絵柄です。
特に妹ちゃんが可愛い。ふとんからチラッとのぞかせる顔が可愛い。

乙女の本棚シリーズは、中高生に人気なイメージがあります。私も妹に教えてもらって、このシリーズの存在を知りました。一冊の値段が高いこの本ですが、学校の図書館に入っているんだとか。
「近代文学」「文豪」と聞くと堅苦しい印象がありますが、こうして絵本の形ならば馴染みやすいのかなと思います。

ちなみに妹は坂口安吾の「桜の森の満開の下」が好きだったそう。

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桜の森の満開の下
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太宰治

自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦後を生き「走れメロス」「津軽」「人間失格」などの作品を次々に発表した無頼派作家。
没落した華族の生涯を描いた「斜陽」はベストセラーになった。

恋や人生に悩みながら生きた作家ですが、彼を知る坂口安吾、檀一雄の言葉を見ると、不器用な人間であったのだと思わされます。
個人的には檀一雄の「小説太宰治」や坂口安吾の「不良少年とキリスト」は読んでほしいなぁと思います。
社会が、歴史が動き、多くの人が文字を読める時代になりました。彼の作品を読めることを、私は幸せだと思っています。

作家別作品リスト:太宰 治
太宰治 | 著者プロフィール | 新潮社
太宰治のプロフィール:(1909-1948)青森県金木村(現・五所川原市金木町)生れ。本名は津島修治。東大仏文科中退。在学中、非合法運動に関係するが、脱落。酒場の女性と鎌倉の小動崎で心中をはかり、ひとり助かる。1935(昭和10)年、「逆行...

葉桜と魔笛 あらすじ

とある老婦人が語ったそれは三十五年前の話。海軍記念日の近くになると思い出す妹の姿。
死の間際に立たされた妹のために、姉は一通の嘘を吐く。容易く見抜かれてしまった嘘は妹の見栄と悔恨を明かした。
時刻は晩の六時。嘘だったはずの口笛がそっと部屋に響き渡る――。

乙女の本棚「葉桜と魔笛」には最果タヒさんの巻末エッセイ「テレポートする言葉」も掲載されています。
最果タヒさんは私が高校生の時に知りました。当時、いろいろと不満や葛藤を抱いていた私からすると、こんなに自由に感情を彩る言葉があるんだな! と感嘆を漏らした詩人です。
あの時勢いで買ってしまった詩集「グッドモーニング」はまだ持っています。先日実家から一人暮らしのアパートに持ってきました。まさかエッセイが「葉桜と魔笛」に掲載されていると思わず。実家から詩集を持ってきたのは何かの虫の知らせだったのかもしれません。

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葉桜と魔笛 元ネタ

Wikiからの引用で申し訳ないです。近々「回想の太宰治」についても調査してみたいと思っています。

津島美知子は、太宰が亡くなった年、すなわち1948年(昭和23年)11月の段階で次のように述べている。

これは、近くに住む一老婦人が、若いとき、日本海岸で、日本海ゝ戦のとどろとどろといふ砲声を聞いたといふ話からヒントを得て書いた。この中に出てゐる、桃の花の歌は、この作品よりもつと前に出来てゐたようで、酔余のたはむれに、この歌をよく障子紙などに書いて人に上げてゐた。

のちに美知子は自著『回想の太宰治』の中で「一老婦人」の素性を明かしている。

四月太宰が書いた『葉桜と魔笛』(『若草』十四年六月号)は私の母から聞いた話がヒントになっている。私の実家は日露戦争の頃山陰に住んでいた。松江で母は日本海海戦の大砲の轟きを聞いたのである。

感想 その才能は本物か

葉桜と魔笛、好きです。家族愛と言えばいいんでしょうか。
語り部の女性の、妹への献身は結果的には無駄なものになってしまう。妹は呆気なく死んでしまうわけですから。でも死んでしまったという悲壮感に打ちひしがれる作品ではない。

死ぬ間際、吐かれた嘘から垣間見えるお互いへの家族愛。温かく、けれども何処か清涼感のある気持ちの良い距離感。なんとも葉桜の季節らしい距離感なのかもしれません。語り部の女性も、妹の話をするときには三十五年が経っているわけですから、諦めのような、独特な雰囲気があります。

葉桜を選ぶ、というのがまたセンスいいなぁと感じてしまう私。
桜の花って、人が見に来るのは満開時、思いを馳せるのは散り際なんです。その後に出てくる葉桜はもう覚えてすらいない。でも近くを通って、葉桜を見たら、過去の花見での出来事とか来年の花見について思いを馳せるわけです。今見ているものは葉桜なのに、心を支配するものは過去か未来なんですよね。

「葉桜と魔笛」はあらすじの通り、語り部の女性が過去を回想する形で始まる。
女性が生きているのは今だけれども、女性の心は三十五年前に捉われているんです。そうした女性の姿を形容する言葉に葉桜を用いているようにも思えて、とても素敵だなぁと思うんです。

加えて、恐らくですがこの作品の中での「桜」は女性を表しています。
だから死の間際で床に臥せる妹は「散り際」の桜なんですよね。姉は妹を「たいへん美しく、髪も長く、とてもよくできる、可愛いい子でございました」と言っている。妹を表す言葉の前に「私に似ないで」と言っていることも重要です。
妹は散り際の桜、ならば姉は散った後の桜。花びらなど一つもなく、全く様子の違う「葉桜」こそ姉の姿なんです。

そうしてタイトル。並べているのは「葉桜」と「魔笛」。
安直に読み取ると、これはどちらも嘘を吐いた二人の家族を形容するものです。
葉桜が姉。魔笛が父。真偽は定かであれども、妹を想った二つが象徴的に描かれている。こんなに安直で象徴的なタイトルは素晴らしいな……。

さぁ、本題の太宰先生の書く女性独白文は才能か、パクリか、について語っていきましょうか。
先述の通り、私は「太宰治天才」だと思ってる人間なので、そんな人間に記事を書かせたら「才能は本物」になってしまうんですよね。

才能が丸パクリではなく本物であると考える根拠は2つです。

  • ネタはネタ。作品は作品。作家は作家。
  • 話のネタが提供されるということは提供してもらえるくらいの作家だということ

どんなに作品に元ネタがあろうと、出来上がった作品が違うものであれば、丸パクリではないと私は考えています。
例えば、一世を風靡していた「転生物」「悪役令嬢者」。もういいよ……と思うほど全部似たような設定や似たような口上で話が始まり、完結していきます。
でも、中には同じ設定や口上を駆使していても、面白い作品というのは存在するわけです。

私のブログ記事ではおなじみの「小説太宰治」。作者は檀一雄です。
あれは元ネタは言わずもがな、太宰治です。ですがちゃんと「小説」になっているんですよね。
他にも生前の太宰治について記している人はいます。でも普段物書きでない人が書く太宰治の話は、小説というよりもエッセイや体験記に近しいところがある気がします。それは太宰治という人間(元ネタ)に対して使う言葉や彩るための虚飾があるかないか、あっても使いこなせているか、という違いなのだと思っています。

元ネタや記録があっても、うまく書けなければ小説にはならないんです。
小説で金を貰ったことがない、趣味程度の物書きの私ですが、ネタを作品にできる、というのは一つの才能であると思います。

それから、太宰治を嫌いな人のほとんどが太宰治の女性歴を嫌がるんですよね。
まぁ、仕方ない。三人殺してるからね、と言えばそれまでですが。

現代でもホストに狂う人、キャバクラに金を使う人、付き合っちゃダメな人に恋する人、沢山いるんです。それって人間が後付けで作った道徳規範に基づいて「だめ」とされているだけなんです。
人間って動物なんですよ。んで動物の遺伝子的には、いろんな遺伝子と交配して、できる限り多くの可能性を残そうとするわけです。だから恋したり愛したりすることは、生物学上間違っていない。
でも人間には社会があって、ルールがあって、暗黙の了解がある。そこから外れたら「社会不適合者」の烙印を押すんですよね。

社会のルールや道徳は分ってる、理解できてる。けど守れない人ってどうしても存在するんですよ。
守れるのが当たり前、って思える人は、そう思えるように教育してもらえた幸せな人です。

太宰先生だけを取り上げるわけじゃないですが、近代文豪って調べてみると変なエピソードが沢山あるんです。60歳になったら本気出すって言って59歳で死んだ人とか、カレー100人前頼む人とか、酒癖の悪さから知人のバーを1年で潰したり、丸太もって友人殺そうとしたり、山手線に轢かれたりね。
近代っていう時代が、みんな「外国に追い付くぞ」「外国の真似するぞ」って頑張っていた時代なんです。そこに世界的な戦争やったり、全員で貧困になったり、負けちゃったりしている。
価値観を一気に変えるぞという時代に。誰もが鬱になっても仕方なかった時代に、筆をとった人たちです。
今の道徳やルールや規範は、近代の人たちの試行錯誤の上に成り立っています。

試行錯誤していた過去の時代の人たちを、規範が完成された今の価値観で判断するのは少し不敬だと私は思います。

そうした意味で、ネタはネタ、作品は作品、作家は作家として見て欲しいと思います。
……そんなこと言いながらこれ等が完全に切り離せるわけじゃないんですけどね。

ついで、作品のネタになるような話が上がってくるってすごくないですか??
普通に生きていて、作品のネタにしてください、って日記が送られてきたり知人から話を聞いたりできるわけです。そういう積み重ねで作品が生まれていると思うと、普段から「作品作るぞ!!」っていう気持ちを心の片隅にでも持っていないといけないです。

太宰先生に「私を小説にしてほしい」そこまで行かなくとも「小説のネタにされてもいい」くらいに思ってた女性がいたってことでしょうね……ただ、太宰先生は身近な人をネタにして佐藤春夫や井伏鱒二に怒られていたみたいなので、女性の真意というのも分かりかねる部分ではあるかもしれません。太宰先生に限らず、沢山の作家が、他の人をネタにすることはやっていたみたいですが。

「お伽草紙」を見ていると、本当に女性独白文が上手だったんだろうなと感じます。特にカチカチ山。女性経験の無い男性心理と男性経験の無い女性心理とがきちんと書き分けられているのは面白いです。男性心理は度が過ぎていて、気味の悪さすら感じてしまう。女性心理は共感できるところも多いです。私が女性だからかもしれませんが……。

そんなわけで、私は太宰先生の女性独白文は本当に太宰先生の才能だったんだと考えています。
後半の感想は「葉桜と魔笛」にほとんど関係がないですね……ごめんなさい。まだまだ太宰先生について語りたいことありますが、もしかしたら記事にするより感想で一冊まとめたほうがいいのかもしれません。
そんな本を文学フリマで頒布しようかな、なんて。

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「葉桜と魔笛」は、1939年に小説誌「新潮」6月号に掲載された太宰治の初期の短編である。女性の独白文体で書かれたこの作品は、知人の老婦人が太宰に語り聞かせた思い出話を題材としているらしい。その2ヶ月前の「文学界」4月号で、太宰は女性読者の有...

↑太宰への火力高めな考察。熱が強めなので、私情が挟まってて面白い記事になっています。
しかし考察として納得させられるところが多く、結論への結びつきも考察サイトの中では一番面白かったです。

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