読書ノート23冊目「恋する民俗学者」

日々雑記

今でこそ茨城大学に通う私ですが、出身は群馬県。
そしてケンミンショーなどでよく取り上げられる「上毛かるた」には田山花袋がいます。

「誇る文豪、田山花袋」

群馬県民だったのですが、実際、何が誇らしいのか全く分かりませんでした。
むしろ前橋市民だったので、夏休みの作文や絵画コンクールなどでは萩原朔太郎の方が取り上げられていた気さえします。


さて、そんな田山花袋の凄さの一端を、漫画でわかりやすく解説したのが「恋する民俗学者」
たった二巻で千五百ページを超える超重量のコミック。
今回は第一巻の柳田國男編、第二巻の田山花袋編、続けての感想です。

私の偏った知識の中で感想を述べているので、史実とは異なりが出てくる可能性がございます。
ご留意の上、読んでいただけますと幸いです。


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恋する民俗学者

柳田國男の知られざる人生を中心に、明治期の若き文豪たちの交友関係を描き出す……。いかにして、一人の青年が文豪たちと肩を並べて語り合い、さらに民俗学者としての道を歩むことになったのか……。

恋する民俗学者 – 1 – Google books より引用

明治時代、文明開化、近代化、それらは急速なまでに普及し、人の心が追い付く間もなく日本は変わっていきました。そこには先を行く欧州列強の文化の影響と、価値観と、日本元来の文化観との違和がありました。
明治に生きた文豪たちの最もな文学的命題は「いかに人の心を表すか」

イプセン、トルストイ、ゾラ、ドストエフスキー、ロセッティ……多くの海外文豪が歌うように、恋、愛、苦悩に揺らぐ人の心を巧みに切り取っていく。
日本の文学は、どう心を表してきたのか、その作家の苦悩を描いた漫画です。

田山花袋

田山花袋を語る前に、少しだけ時代をさかのぼってみましょう。
1887年、二葉亭四迷により「浮雲」が刊行されました。この作品は日本で初めて「言文一致」を目指して書かれたものです。ところが初の試みに難航し「浮雲」は第三篇で終わってしまいました。

こののちに登場するのが、尾崎紅葉と森鴎外。どちらも田山花袋と関わりのある作家です。
森鴎外に関しては「恋する民俗学者」本編でも登場します。森鴎外の文体は雅文体とも呼ばれ、独自の形態を生み出しました。
もっとも有名な作品は「舞姫」。教科書で読んだ方も多いのではないかと思います。国や性差による恋愛観の違いを映し出した作品だと、私は記憶しています。

尾崎紅葉は硯友社を設立し、我楽多文庫を刊行しました。尾崎紅葉の名、影響力は凄まじく、もっとも有名な門下生として泉鏡花がいます。
1891年、田山花袋は尾崎紅葉を尋ね、小説家を志しました。

多くの作家の影響を受けつつも、その影響に完全には染まりきらず、新たな文学―日本の文化観で、日本人の心を表そうとする文学―を、田山花袋は模索していきます。その模索の苦悩が描かれているのが「恋する民俗学者」です。
田山花袋の代表作は「蒲団」。現代では日本自然主義文学の代表として称えられています。また日露戦争後に活躍していく私小説の祖であるとも考えられています。

自然主義文学

19世紀後半にフランスを中心に始まった文学運動を自然主義、もしくは自然派と呼びます。
エミール・ゾラが名付け、遺伝や進化論などの理論を文学に落とし込んだうえで物語として成立するように描いた作品のことを指します。自然の事実を観察し「真実」を描くために、あらゆる美化を否定しました。

日本の自然主義はフランス自然主義派の文学を取り入れつつも、別の方向に進みました。フランスの自然主義が誰がどの視点から見ても変わらない事実を描き出そうとしたのに対し、日本の自然主義は自分から見た事実を「客観的」に捉えられるように物語として描き出すようになりました。

その為海外文学には貧困が主流に描かれたのに対し、日本の文学では挫折や私的な経験が主として描かれていきます。

「恋する民俗学者」の感想

日本の文学をさかのぼれば、さかのぼるほどに日本文学がどのような苦悩の上に生まれてきたのかに思いを馳せることができます。
今現在、私達はインターネットを通して思いのたけをありのままに描くことができますが、もし二葉亭四迷が言文一致体を見つけていなければ、それに続く多くの作家が心の表現方法を模索していなければ、このような社会は生まれなかったのかもしれません。

田山花袋をはじめ、過去の人間の失敗談や滑稽談は時に現代の私たちの話のネタになります。
けれどそうした話のネタが残っているのも、田山花袋が私小説の土台を作ったからこそ残っているのかなと思いました。
その志が一般化した結果、今は誰もが自身の得た経験を面白おかしく言葉にすることができています。
その発端が、私小説であるというならば、なるほど「誇る文豪」なのだと感じました。

私の知識不足故、柳田國男に対する知識が「民俗学の祖」というイメージしかありませんでした。
田山花袋が新しい文学を切り開くのに苦悩したように、柳田國男の生涯にも紆余曲折がありました。
この作品を通して、柳田國男の作品にも触れてみようかと思いました。
第一巻にて代わりに歌う恋の心が得意であった國男が、第二巻の最後には消えていく人々の記憶の代わりに物語を残す「民俗学者」になる―この流れが綺麗でびっくりしてしまいました。この美しい流れこそがタイトルの「恋する民俗学者」なんだと、息を吞みましたね……。

田山花袋中心の感想文になってしまいましたが、第一巻の主人公は柳田國男。
私小説の祖である田山花袋と民俗学の祖である柳田國男――近代日本の始まりに二人の関係が美しく交錯していきます。



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参考文献

浮雲(二葉亭四迷の小説)Wikipedia

青空文庫 / 二葉亭四迷 浮雲

尾崎紅葉 Wikipedia

田山花袋記念文学館 田山花袋について

田山花袋 近代日本の肖像

蒲団(田山花袋の小説) Wikipedia

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