文学フリマで本を売った収入以上に散財して、今月の食事がひもじくなりつつある大学生です。
でも、本があれば十分満足してしまうのが、この生活の恐ろしいところ。
本を読んでいるといろいろな感情が湧き上がります。
今日は文学フリマで買った「REM」について感想を。
感想
普段はあらすじ紹介などをさせていただいておりますが、この本に関しては、下手な紹介をすると蛇足だと思いましたので割愛いたします。
この記事は作者のお二人に感想を伝えたい思いで書き始めました。そして自分の中で起こる感情を記録したい気持ちもあります。
そのような心づもりで読んでいただけましたら幸いです。
一番の感想としては「悔しい!」と思いました。
にしむらさんの浮遊感のあるイラストにオカダさんの硬質な文章が相まって、繊細な世界観を生み出しています。
私はイラスト・絵は描けませんし、オカダさんのような文章を書いたこともありません。
こんな世界があったのか……! という新たな発見と、今まで見つけられなかったことへの失望感。自分が「無い」と思っていた道を切り開いて進んでいく背中が見えるようでした。自分の中になかった選択肢を突詰めているお二人。文学の広さと深さを再認識できます。
さて、私は前段落にて「浮遊感」といいましたが、「夢の中を駆け巡っている」ようだと言った方が表現として正しいのかもしれません。
眠る前の現実への不安、夢の始まりの不思議な安堵、夢に身を任せ摩訶不思議な物語が進んでいき、何かに追われるように目が覚めていく。
夢の中で上手く走れない、思うように前に進めない焦燥が現れていました。
色遣いは全体的に暗く落ち着いているのですが、使用している色単体を見ると鮮やかなものが多いです。圧倒的なカラーバランス・構成力による印象と実際に見えている視覚のギャップが現実離れした浮遊感を生みだしているのだと思います。
描かれる主人公美里の表情も、彼女を象る黒い線だけでは無感情に見えますが、にしむらさんの色彩配置によって多くの感情を「抱え込んでいる」ように見えます。
描かれている絵で十分に情報量があると感じます。
しかし「REM」の本当に素晴らしい部分は絵を邪魔しない、十分な文章力でしょう。
先述の通りにしむらさんの絵には感情が強く表れています。それを補い、補強し、かみ砕いて、味を出すようにオカダさんの文章には情景描写や主人公を取り巻く世界の動きが表現されています。
オカダさんの文章はかなり硬派と言えるでしょう。熟語を多用した表現であり、世界の捉え方にも偏見なく、見た儘を言葉にしているようです。
細かな変化にも機敏に対応して描かれる情景描写により、無機質な文章ではなく、主人公の目を通して感情を載せて言葉が紡がれていきます。
私のような平凡な人間が絵本を書こうとすると、絵本の主題は「文」もしくは「絵」であり、どちらかはどちらかの副次的な効果を持っているように作ってしまうでしょう。
お二人の作品は、本当に違う二人の人間が描いたのかと疑問に思われるほどに一体感があり、「文」も「絵」も主題であり、どちらかが無くてはこの雰囲気が出せないものです。
大変申し訳ない話をいたしますと、傲慢にも「絵本」と聞いた時に子供向けの作品を想像してしまいました。
まがりなりにも文章を書く人間としてあるまじき想像力。偏見に囚われた思想です。
「REM」はそういった偏見を私の中で吹き飛ばしてくれるような作品でした。
しかし安易に大人向けの絵本、と言いたいわけではありません。上手く言い表せるかわかりませんが、私の中にいる「子供の私」に語り掛けるような作品だったように思います。
大人になる、とは「子供の自分」が消えることではありません。
子供の自分を見ないふりをする、ということ。
あれが欲しい、これがしたい、と常に欲望に従う無邪気な自分に理屈や理論の枷をつけて不自由にしていくこと。
けれども子供に対して理屈で説明したとて、理解し納得してくれるわけではない。つけていた枷はいつしか檻になり、窓から監視する独房になり、一つの子共部屋へと変わっていく。子供部屋には外からカギがついています。
子供部屋の中から、子供の自分は空を眺めることができるけれども、大人の自分は部屋を見ることはありません。
大人になるというのは子供の自分が発する要求に無視をしていく、やがて本当にいないものとして扱ってしまうことなのだと思います。
いないものにされた「子供の私」に大人の私に気付かせるための扇動を加えるような作品。
見ないふりをしていた思いに揺さぶりを与える力強さがあります。
このように感想を書いていると、次から次へと書きたい言葉が出てきてしまいます。
これ以上の言葉は蛇足でありますし、この作品を通じて見た私の姿をありありと描くことになってしまい、「REM」への感想ではなくなってしまうでしょう。
今回はここまで。拙い感想ですが、ご一読いただきありがとうございました。
にしむらさん、オカダさん、素敵な作品をありがとうございます。
また出店される機会がありましたら、絶対に買いに行きます。
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