読書ノート22冊目「あさましきもの」太宰治

日々雑記

しばらく、太宰治の作品について感想を書こうと思います。
好きなものの話ばかりになるのは、ブログ読んでる方も飽きるだろうし良くないとは思いました。
よくよく考えてみれば、こんな趣味で始めたブログを定期的に読んでる人なんて、そう多くないんじゃないか????? と思い至ったので、太宰治の話をします。
大好きな作家の話をします。それが太宰治なんです、仕方ないね。

いろんな作家を読んでいる今も、定期的に太宰治の作品に戻って来ています。
前もどこかの記事で書いたかもしれませんが、私にとって、読書を趣味にするきっかけが太宰治の「人間失格」だったこともあり、もうすっかりその土壌で育ってしまったんです。
植物が住み着いた場所から動けないように、私もおそらく、この習慣は変えられないと思います。

だけど、植物の様に、根を広げていくことは出来ます。
誰かが、太宰治をきっかけにいろんな文学に触れてくれたら、太宰文学の読者の私は結構、かなり、滅茶苦茶、本当にうれしいです。

(ぶっちゃけ、短編小説とか書いてますけど、私の文章読むくらいなら太宰先生の本を一冊買ってくれとさえ思ってます)

太宰治

自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦後を生き「走れメロス」「津軽」「人間失格」などの作品を次々に発表した無頼派作家。
没落した華族の生涯を描いた「斜陽」はベストセラーになった。

恋や人生に悩みながら生きた作家ですが、彼を知る坂口安吾、檀一雄の言葉を見ると、不器用な人間であったのだと思わされます。
個人的には檀一雄の「小説太宰治」や坂口安吾の「不良少年とキリスト」は読んでほしいなぁと思います。
社会が、歴史が動き、多くの人が文字を読める時代になりました。彼の作品を読めることを、私は幸せだと思っています。

作家別作品リスト:太宰 治
太宰治 | 著者プロフィール | 新潮社
太宰治のプロフィール:(1909-1948)青森県金木村(現・五所川原市金木町)生れ。本名は津島修治。東大仏文科中退。在学中、非合法運動に関係するが、脱落。酒場の女性と鎌倉の小動崎で心中をはかり、ひとり助かる。1935(昭和10)年、「逆行...

あさましきもの

清少納言の書いた「枕草子」と同様の形式をとり、「あさましきもの」として三つの話を上げています。読んだ人にはわかるかもしれませんが、恐らく、この話は全て太宰治自身が基になっています。

太宰治 あさましきもの

感想

「あさまし」は古文では「驚きあきれる」「興覚めだ」という意味が強いようです。
現代で使われる「あさましい」には「下劣」「賤しい」という意味になりました。
どちらにも「情けない」という意味が残っています。
古文では感情の程度を表わす表現でしたが、現代語ではかなりマイナスの意味合いが強くなったよう。

太宰先生の書いた「あさましきもの」には古文・現代文、どちらの意味も存在していると思いました。
話に登場する人物たちは、この話を主観的に見て「興覚めな話」として説明するでしょう。
一方で読んでいる私達からすれば、これは「下劣」「賤しい」として認識するものばかり。
そうして、書いている太宰先生自身は「情けない」と思っているのだと感じます。

前回「猿面冠者」で、太宰文学には三者の視点が太宰先生の視点で語られていく、と考察しましたが、「あさましきもの」はそれを簡素な文章で表現したものだと思っています。

「人間失格」を読んだことのある方にはわかるかもしれませんが、「あさましきもの」に載っている話の内二つは「人間失格」にて再登場します。
太宰作品を読んでいるとわかりますが、多くの作品で試験的に文章表現を試すんですよね。

例えば漫画家やイラストレーターが同じストーリー、同じ人物を描くように。
ほんの少し違う角度をつけたり、視点を変えたり、動きを変えたりして、第三者から作品がどう見えるのかを学んでいく。
太宰先生の「あさましきもの」はそういう、試験をした作品です。

個人的には一番最初の、タバコ屋の話が好きです。
女性の盲目さと、それに手を焼くダメな男性の滑稽談。

例えば志賀直哉や夏目漱石などは出版時に作品が完成されている。
それだけ時間をかけ、精神を詰め、魂を込めている……だからどれを読んでも面白いと思える。
美しいと思い、勉強になると思えます。

一方で太宰先生の生きた時代にはすでに多くの文士がいた。
その中で、生き残っていくには、周りがやっていないことをするしかない。
完成した作品ではなく、試験的な作品を打ち出していく。
どこまで作為的だったのかはさておき、これが後の作品達に繋がっていったのだと考えると、面白いなぁと私は感じてしまいます。

現代では昔よりもはるかに多くの人が文章を書いています。
本を出している人だけでなく、私の様にどこかのサイトを利用して書いている人もいる。
作家の成長を見守ることのできる環境、というのも趣深いですよね。
成長過程という点は、AIには難しい分野だと思いますから、今後もこういう作品が増えていくのではないかなと。
成長過程をさらす、というのはかなり恥ずかしいと感じることもあります。
私も書きかけの小説やブログ記事は他人に見せられません。
しかし勝手ながら、そういう試験的な作品を書いた時、書いた作者が新芽を摘まないでほしいと、思うのです。

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